メニュー
潜在性二分脊椎に含まれるもので、胎生4週から6週の間に皮膚外胚葉と神経外胚葉の分離障害がおこり皮下の連続した脂肪組織が脊柱管内に侵入することが原因と考えられています。
腰仙骨部に後発し、外胚葉由来であるため多くの皮膚症状がみられます。脊髄髄膜瘤と異なり皮膚で覆われ、皮下脂肪種、多毛、血管腫、皮膚陥凹などのいわゆる70-80%に“告げ口サイン”がみられ、出生直後や乳児期に検診などで指摘されることが多いです。
その他、全身の奇形症候群と合併して発生するものもあり(総排泄腔外反症、クラリーノ症候群、 OEIS複合症候群、VACTERL症候群など)、その場合は出生時に指摘されることとがほとんどです。
神経症状については、脂肪腫が神経に癒着し成長に伴い引っ張られること(脊髄係留)、神経への圧迫、脊髄形成不全が原因となり、主に下肢障害(運動障害・感覚障害・関節変形)または膀胱直腸障害(排尿・排便障害)の症状が出現する可能性があります。下肢障害は、足趾変形、足関節内反、下肢長の左右差、足底サイズの左右差、側弯症.歩容の変化、下肢筋力低下、疼痛よくみられますが、ゆっくり進行することが多いため注意が必要になります。膀胱直腸障害は、一度出現すると改善の可能性が他の症状と較べ最も低いと考えられており、腎機能温存のためには早期発見が重要となります。トレイトレーニング前のお子様では、症状がはっきりせず発見されにくいため神経因性膀胱が少しでも疑われる場合は泌尿器的検査を行う必要があります。
成人以降で見つかるケースは小児と比べると少なくなります。その場合は、下肢、腰部の疼痛発症が最も多く、次に膀胱症状、その他、別目的の検査にて偶発的に見つかることもあります。
3か月までの乳児は超音波エコーにて初期スクリーニングを行うこともありますが、確定診断には腰椎MRIが必要となります。また、二分脊椎、脊椎変形を確認するため腰椎CTスキャン、レントゲンを行うこともあります。
Chapman分類がよく用いられ、脊髄に対する脂肪腫の位置より、背側型、尾側型、移行型、終糸型に分類されます。近年、発生学的機序に基づいたMorota分類も用いることもあります。
膀胱直腸症状や下肢症状を有する症例については、基本的に手術が推奨されます。理由としては、一旦発症するとその後進行してしまう可能性が高いこと、早期手術であれば、全例ではありませんが改善する可能性があることが挙げられます。
無症候性症例については、予防手術となるため手術適応は総合的に判断します。年齢、分類、脊髄空洞症の有無、脊髄形成不全の有無、脂肪腫のサイズ、脊髄円錐下端の位置など手術リスク、将来の症状悪化の可能性を考慮しご家族と相談の上手術適応を決めます。例えば、脊髄円錐下端が低く脊髄空洞症のある症例は、既に脊髄が強く引っ張られている可能性があり症状悪化の可能性が高いと判断される等です。
手術は、脊髄係留の解除と可能な限りの脊髄脂肪腫の摘出を目的として行います。
皮膚切開は、通常脊髄脂肪腫の頭尾側正常脊髄、神経根が露出できる範囲となるためやや長めの切開となります。後方を覆っている骨である椎弓を切開または形成し、脊髄を覆っている硬膜を露出、切開解放します。脊髄脂肪腫を周辺組織より剥離・摘出の際は、隠れている重要な神経が巻き込まれていないか判断するために神経モニタリングを用い、微弱な電流を流し下肢運動神経や仙髄部分の神経に反応が出ないか確認しながら手術用顕微鏡にて丁寧に操作を行います。一般的に移行型、脊髄形成不全があるもの、脂肪腫が多いものは難易度が高くなる傾向があり、手術時間が長くなる、再発の頻度が高くなる可能性があります。一方で、終糸型脂肪種は、脊髄下端から仙骨部につながる紐状組織である終糸に脂肪組織が迷入したもので、神経機能を持たないため切断のみで係留解離可能となります。
硬膜内には脳脊髄液が流れているため、皮下への髄液漏れを予防するため縫合、創部閉鎖を密に行い終了となります。術後は、すぐに起き上がると手術部位が一番下となり髄液漏のリスクが高くなるため、一定期間臥床にて過ごす必要があります。
排尿障害が残存している症例に対しては抗コリン剤投与や導尿が行われることもあり、進行例に対しては泌尿器科手術が必要になることもあります。排便障害に対しては内服・浣腸・洗腸など保存的治療が行われます。
下肢関節変形に対しては、装具療法の適応となりますが、進行の程度によっては整形外科手術が必要になることもあります。
外来にて神経症状の出現や進行しないか長期的に経過観察を行います。
術後に脊髄や神経根と周辺組織の癒着が起こり、成長に伴い脊髄が牽引されることを再係留といいます。膀胱直腸障害、疼痛、運動障害の悪化、進行が明らかな場合、症候性再係留と判断され、脊髄、神経根周囲の癒着剥離(係留解離術)が必要になります。
近年、手術技術や機器の改善、進歩にて症候性再係留の頻度は低下してきていますが、未だに移行型の一部、脂肪脊髄髄膜瘤などの症例は再係留を起こすことが比較的多く十分な経過観察が必要になります。